カインドママ

Baseball cap

家を出た時から、なくすことなく被っていた帽子に穴が開いてしまった。
それはパパに貰ったもので、僕の宝物だった。
穴ぐらい、なんてことない。
なんてことなかったのに。

「…悪いこと、したなあ…」
駅のホームでニンテンがため息をつく。
「でも、ロイドだって悪いんだし」
帽子を被りなおそうとして、無くなってしまった事を思い出す。

 

それは、昨夜の話。
穴の開いてしまった帽子を見て、ロイドが直してやると言い出した。
あまり乗り気ではなかったニンテンは、別にいいよ、とそっぽを向いた。
頼りにされてないんだ、と思ったロイドは思わずカッとなってしまった。
ロイドに奪い取られる赤い帽子。
奪い返そうとするニンテン。
逃げるロイド。
そして。

「「あっ!!」」

帽子は、窓の外へ飛んでいってしまった。

 

「ここらへんだと思うんだけどなあ…」
ガサガサと草木をかきわけ、森を進むロイド。
宝物だと知ったのは、帽子が風に乗って森へ飛んでいってしまってから。
『だったら、そう言ってくれれば良かったじゃないか!』
思わず語調が荒くなった。
『言えるワケないだろ!?』
『ある!』
『…もう、いいよ。諦めるから』
『諦めない!』
『おい、落ち着けって!』
『僕が諦めない!絶対探してくるから。だからキミは先を急ぐんだ。僕が旅の足止めになるのは絶対イヤだから!』

「ワガママだよな…」
ふう、と汗をぬぐいながら、ため息をひとつ。
「でも…」
あんなに強気で叫んだのは初めてかも。そう思いながら、少しだけ笑みを浮かべた。

 

「…やっぱり待ってた」
「悪かったな」
泥だらけになったロイドが駅に着いたときには、もう陽も沈んでいた。
ニンテンはベンチにも座らず、ただただ線路の先を見つめて立っていた。
「…ごめん。はい、これ」
「あ、うん。…ありがとな」
「ううん。いいんだ。ちょっと楽しかったし」
「そっか」
ようやくベンチに並んで座る2人。
久し振りに何とも闘わずに1日が終わろうとしている。
そんな日もあるんだなあ、とロイドが呟いた。
ニンテンはロイドを見、そして線路を見て、口を開いた。
「この線路の先には…何が待ってると思う?」
「何だろう…。終着駅はスノーマンだよね」

「もうすぐ会える、もう1人の『ともだち』だよ」

その翌日、2人は可愛い帽子を手に入れた。

2003/5/29 up
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