地底大陸にて

 ぐうぅ~~っ

聞きなれた音がこだまする。
ここは地の底、地底大陸。…そのまんまである。

「ここ…どのへん?」
ネスが、帽子をうちわ代わりにしながら言う。
「…さあ?」
立ち止まったとたん、座りこんでしまったポーラが答える。
「あまり認めたくはないけど…。迷った…みたいだね」
すっかり乾いてしまった『ぬれタオル』を握りしめ、ぽつりと呟いたのはジェフ。
「こんなにけわしい所とは…」
プーは疲れているようには見えないが、声から疲労がうかがえる。

上から見れば(ゲームでは)たいして入り組んだところの無い地底大陸だが、実際その地に立ってみると、木々は険しく、地面は熱い。道と呼べる道は無いし、あっても恐竜の通り道だ。加えてこの熱さ。『暑い』どころではない。空気が熱いのだ。疲労もピークをむかえつつある。
さらに……。

 ぐうぅ~~っ

そう、4人は空腹だったのだ。

「誰だよー。グミ族の村なんてすぐ見つかるっつったのは」
ネスがぼやく。間髪入れずにポーラが返す。
「ネスでしょ」
座った地面も熱いので、気が立っているらしい。フライパンだって曲がりそうな熱さだ。
「空が見えればなあ…」
ぼんやりと宙を見つめ、ジェフが言う。
「空さえ見えれば方角もわかるし…マッピングだって正確にできるのに」
ジェフの手帳に書かれた、ここの地図のようなものは、もはやラクガキにしか見えない。
「………」
口にこそ出さなかったが、実はプーが一番こたえていた。なぜなら、ここに着いてからというもの、水を1杯しか口にしていなかったからだ。
なにしろ彼は外国製の食べ物が体に合わないらしく、体力があまり回復しないのだ。しかし、それでも何も食べないよりはずいぶんマシだったな、と痛感していた。

 ぐうぅ~~っ

誰かの腹の虫が怒っている。始めのうちは虫の声を聞くたび赤面していたポーラも、すっかり無反応になっていた。
「もう、食べ物って…ないんだよね?」
この質問は5回目だ。ネスはゆっくりうなずく。
「グミドリアンしかないんだ」
返ってくる答えが同じだと判っていても、全員の顔に落胆の文字が浮かぶ。もしステータスウィンドウがあるなら、HPは全員2桁だし、PPだって多くて3だ。
ああ、テレポートさえ使えたら!そまつなパンの1つでも残っていたら!

 ごごご……

これは腹の虫ではないようだ。何度となく起きている地震。もう数える気も起きない。
「なんでマッハピザとか来れないんだよ~…」
「エスカルゴ便だけ来るよりはマシね…。ネスったら食べ物1つも預けてないんだもの」
「まあ、ふつう預けないからね…」
「あら、ゲームでは預けるのが当たり前の人だっているわよ?」
「なんだよゲームって…」
これも何度か繰り返している会話だ。今までと違うのは、プーが一言も喋っていないこと…。
「え、プー!?」
「わあぁ倒れてるッ」
「大丈夫!?」
3人は、いつの間にか倒れていたプーに駆け寄った。

「どうしよう…。水でもかければ起きるかしら。水なんて無いけど…」
「それより間欠泉に放りこめば」
「ヘタすると死ぬぞ。間欠泉なんてここに来てから見てもいないし」
「「「う~~~~ん……」」」
とりあえず歩きはじめた3人だが、足取りは重い。
驚くほど軽いプーをネスが抱え、ジェフがネスのリュックを背負っている。プーは応急処置として帯が外されていて、ネスにはお姫様抱っこをされている。言っちゃ悪いが異様な光景だ。

「この木、見た気がするなー…」
立ち止まるネス。
「プー、起きないね」
プーの顔を覗きこむポーラ。ネスはちょっとムッとする。ほんの少し、ちょっとだけ。
ふいに、ジェフの頭の上に電球が光った。…ように見えた。
「グミドリアンが気付け薬にならないかな」
「きつけ、ぐすり?」
「詳しくは知らないんだけど、気絶した人の意識を取り戻す薬の事だよ。
アンモニアなんかを使うみたいだから、きつい匂いが要るだろうし…」
説明を聞いていたネスが、少し悪人っぽい笑みを浮かべた。意外と根に持つタイプだったりするのか?
「やってみようか」
ああ!プー!早く目を覚まさないと!3人の頭には、もはや『好奇心』の3文字しかないようだ!!

 ごごご……

地震には気づかないかのように、3人はてきぱきと準備を進めていた。
プーから少し離れた所にグミドリアンを置き、元ぬれタオルやハンカチで鼻と口を覆い、ポーラのフライパンをハンマー代わりに、ジェフのドライバーをノミ代わりにして(2人は泣いて嫌がったが、ネスが新しいものを買うと約束した)、準備OK!

「「「せえのっ」」」

 ぱかあん!!

わりと軽快な音に対して、飛び散る果汁の、なんとも凄まじい匂い!!
タオルやハンカチなんて、まったく意味が無いことに気づき、3人は思わず駆け出した。

いくら走っても、匂いはついてくる。なにしろ、飛び散った果汁が服についているのだ。仕方がないので3人は、プーのもとへ戻ることにした。
とにかくスゴイ匂いだ。ゲップーとはまた違うタイプの。すでに鼻は曲がりきっていて、嗅覚はマヒしている。

「プー?……あ、まだ寝てるよ」
「…寝てるんじゃないと思うけど」
驚いたことに、あの凄まじいグミドリアンの中身の匂いでも、プーは目を覚まさなかったのだ。
「早くベッドに寝かしてやりたいわ!わたしたち4人、全員!」
ぽろぽろと涙を流しながら(グミドリアンの匂いは目にも来るようだ)、ポーラが叫ぶ。ネスもジェフもうなだれている。
なんだか、素直に気絶できているプーが羨ましくさえ思えてきたらしい。
「グミドリアン…食べさせたら……さすがに…起きるだろ」
「えっ…それはちょっと…かわいそう……だけど…」
「しかたないよな…うん……気付け薬だ」
おーい!プー!!今度こそ目を覚まさないと!!空きっ腹にグミドリアンは大変なことになりそうだ!口臭とかすごそうだし!

 ぐうぅ~~っ

腹の虫を怒らせたままの3人が、ムーンサイド的な怪しい笑みを浮かべながら、グミドリアンを殻ごと抱え、あとの1人にぶっかけようとした、その瞬間!!

 ざっ

木々の間から、さっそうと現れたのは、グミ族の1人!
「それはグミドリアン!ぜひ我々にください!!村にご招待しますんで!!」
グミ族とは思えないほどの早口でまくしたて、グミ族の1人が着地したのは…目を開けたプーの顔、その真上にある、3人が抱えたグミドリアンの上だった。

 べばしゃあっ

……………ご愁傷様。

 

その後…

村に着いた一行は、たかいみず1つだけを買ったかと思うと、泊まりもせず、プーのテレポートでグミ族の村(上)に戻ったそうだ。
そこでしばらくは『からだについたきたないものをおとす』ため温泉に通い、ネスは全員分の新しい装備を揃えなおしたとか。

そして、プーは好き嫌いなく何でも食べるようになったそうな。

…とはいっても、回復具合は相変わらずなのだが。

(20010803)